行ったことも、住んだこともない地域の裁判所から、貸金返還請求(借りたお金返すよう求められる裁判)の訴状が届いた、というご相談はとても多く寄せられます。
ここでは、なぜこんなことが起きたのか、裁判はどこの裁判所でもできるのかを説明します。
事例
静岡県にお住まいのXさんは、貸金業者A社のカードを、静岡県内の店舗で作り、県内各所に設置されているATMなどで借り入れや返済を行っていました。
しかし、諸事情が重なって返済が遅れ、数か月間、返済が滞納しましたすると、カード会社から、キャッシング残高を一括で返済するよう督促状が届くようになりました。これを返せないでいると、ついに、裁判所からの訴状が届きました。
訴状が届いたことにXさんは驚きましたが、訴状が、名古屋地方裁判所からのもので、同裁判所に裁判の日に来るよう呼出し状が同封されていることにさらに驚きました。
Xさんは、名古屋に住んだこともなければ、貸金業者A社からキャッシングを開始して以降、旅行でも名古屋に行ったことはありません。
愛知県内のATMで借り入れや返済を行ったこともありませんでした。
A社は、なぜ、名古屋地方裁判所に訴訟提起したのでしょうか。
説明
裁判は、原告が、どこでも好きな裁判所を選んで提起できるのか、という問いに対する答えは、「NO」です。
裁判は、管轄のある裁判所に訴訟提起しなければなりません。
ですから、上の事例では、名古屋地方裁判所に、貸金業者A社のXさんに対する貸金返還請求訴訟の管轄があるから、というのが1つの答えになります。
(A社があえて、または間違えて、管轄がない裁判所へ訴訟提起したというケースも考えられますが、そのケースは、別のコラムで説明したいと思います。)
ではなぜ、上の事例で、名古屋地方裁判所に管轄が生じたのでしょうか?
ある事件の裁判所の管轄が、どのように、どこに生じるかは、基本的には民事訴訟法が定めています。
消費者金融や貸金業者からの貸金返還請求訴訟の場合、次の3つの場所に、管轄が生じることが通常です。
- 被告の住所地を管轄する裁判所(民事訴訟法4条)
- 借金の返済をすべき場所(義務履行地。同法5条1号)
- 契約の際に、当事者が合意した第1審裁判所(同法11条)
このように、複数の裁判所に管轄が生じている場合、原告は、いずれの裁判所かを選んで、訴訟提起することができます。
上の事例では、貸金業者A社は、Xさんの住所地、静岡地方裁判所に、訴訟提起することができます。
また、貸金業者A社は、Xさんが借金の返済をすべき場所に、訴訟提起できます。
借金の返済をすべき場所とは、Xさんがお金を借りた際に指定された場所、このような指定をされなかった場合は貸金業者A社の住所地(本店所在地。支店も可)になります。
借金の返済は、お金を借りた人が、お金を貸した人の元へ借りたお金を持参して返すのが、原則だからです。
さらに、消費貸借契約またはカードの基本契約時に、本契約に関するトラブルを解決するために利用する裁判所を合意していた場合、その裁判所に訴訟提起できます。
このときの合意の内容・方法によっては、合意した裁判所のみを管轄裁判所とし、他の管轄裁判所を排除することも可能です。
上の事例で、貸金業者A社が、Xさんの住む静岡地方裁判所に訴訟提起しなかったのは、A社の本社や支店が名古屋地方裁判所の管轄エリアにあるか、XさんがA社からお金を借りる際、第1審裁判所の管轄を名古屋地方裁判所とすることに合意したためでしょう。
全国的に展開している貸金業者、消費者金融、クレジットカード会社、金融業者はたくさんあります。
このような会社は、自社の利便性を重視して、あらかじめ契約の際に、管轄裁判所の合意を取っておくのが一般的です。
なぜ、この地域の裁判所から訴状が届いたのだろう?と疑問に思った方は、訴状の原告の住所地を見てみてください。原告の住所地を管轄する裁判所ではないでしょうか。 もしくは、契約書をよく読み返してみてください。小さく細かい字かもしれませんが、裁判所の管轄について書かれている箇所があるのではないでしょうか。
借金の返済を滞納している、貸金業者から貸金返還請求訴訟を提起された、裁判所から訴状や支払い督促が届いたなどの方は、名古屋駅前・春日井駅前の弁護士/法律事務所、弁護士法人中部法律事務所にご相談ください。