借金をして返済ができなくなってしまったら、「特定調停」によって解決する方法を選択できます。
特定調停については、「聞いたことがあっても具体的にはよくわからない」という方が多いのではないでしょうか?
今回は、特定調停とその活用方法について、中部法律事務所の弁護士が解説します。
1.特定調停とは
特定調停とは、簡易裁判所の調停手続を利用して、債権者と借金返済の方法の話合う債務整理の方法です。特定調停をすると、借金の利息をカットするなどして、総返済額を減額することができます。調停成立後の返済期間は、だいたい3年程度になることが多いです。
借金返済計画を立て直すことにより、月々の返済金額を減らして、完済まで返済を継続していくことができるようになります。
また、手続き中は、裁判所の調停委員が間に入って話を進めることになります。合意ができたら、調停が成立し、裁判所において「調停調書」が作成されます。
さらに、調停中に裁判官が相当と認める場合、17条審判という方法で特定調停が終わることもあります。17条審判とは、当事者に合意ができていなくても、調停の経緯などを考慮して裁判所が解決方法を決定してしまうことです。
17条審判が行われた場合、当事者は異議を出すことが可能で、異議が出たら審判の効力は失われます。
2.特定調停のメリット
特定調停には、以下のようないろいろなメリットがあります。
2-1.裁判所が間に入ってくれる
1つは、裁判所が間に入って話を進めてくれることです。
借金を支払うべき立場である債務者が、直接借入先と返済交渉をするのは困難な面がありますが、調停委員が間に入るので、かなり話を進めやすくなります。
2-2.手続きが比較的簡単
特定調停は、裁判所を利用する債務整理の方法ではありますが、その中では比較的手続きが簡単です。自己破産や個人再生などと比べると、必要書類も少ないですし、書面審理よりも話合いによって進んで行く手続ですから、法的知識もあまり要りません。弁護士に依頼しなくても、債務者が1人でも進めやすいです。
2-3.費用が安い
特定調停は、費用が安いのも魅力です。必要なのは、債権者1社について500円の収入印紙と郵便切手のみです。他にかかるのは、裁判所の往復の交通費程度ですから、弁護士に依頼することがなければ、総額1万円以下に抑えることも十分可能です。
2-4.支払の督促が止まる
特定調停を申し立てると、裁判所から債権者に通知が送られます。この通知をもって、債権者は債務者に督促をしてこなくなります。
3.特定調停の注意点
特定調停をするときには、知っておかなければならない注意点もあります。
3-1.過払い金請求ができない
1つは、過払い金請求ができないことです。特定調停では、利息制限法に引き直し計算をしますので、過払い金が発生していることが判明することもあります。しかし、特定調停の手続き内において、過払い金請求することはできません。過払い金が発生していたら、調停外で過払い金請求を行い、調停は取り下げる必要があります。
3-2.強制執行される可能性がある
特定調停で調停が成立すると、調停調書が作成されますが、調停調書には、強制執行力があります。強制執行力とは、差押えをすることができる効力のことです。
そこで、特定調停後に約束通りの支払をしないと、債権者から財産や給料を差し押さえられてしまう可能性があります。
他の債務整理手続きである任意整理や個人再生では、いきなり強制執行をされることはないので、このようなことは特定調停特有の大きなデメリットと言えます。
3-3.解決できない可能性がある
特定調停をしても、問題を解決できない可能性がかなり高いです。調停なので、相手が納得しなければ解決することができません。
また、特定調停を利用したケースでは、実際には調停成立ではなく17条審判で終わっている事例が非常に多く、全体の半数程度に及んでいます。
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/252/009252.pdf
17条審判の場合、債権者か債務者が異議を出すと、無効になってしまいますから、解決することはできなくなってしまいます。
3-4.借金の支払いが楽にならない可能性がある
特定調停では、利息制限法を超過する利率での取引がない限り、借金返済額を大きく減額することができません。
そこで、特定調停をしても、借金返済があまり楽にならないことが多いです。借入金額がある程度以上大きくなっていると、特定調停での解決が難しくなるでしょう。
このこともあって、特定調停は、取り下げ件数が多いのも特徴的です。平成28年度の実績でも、終局件数の3分の1程度が取り下げで終了しています。
4.特定調停が有効なケース
以上を前提に、特定調停を活用すべきケースは、以下のような場合だと言えるでしょう。
●借入額がさほど大きくない
●できるだけ安く債務整理をしたい
●手続きに時間や労力をかけてもかまわない
●過払い金が発生していない
ただし、調停成立後は、必ず「滞納せずに」完済することも重要です。
5.まとめ
以上のように、特定調停は制約やリスクも多い方法であるため、弁護士実務上はほとんど利用されていません。債務整理を進めようとするときには、別の方法も併せて検討する方が良いでしょう。